1990年の年末、アメリカに留学中だった私は、学業とアルバイトに追われる中、やっと10日ばかりの休みと僅かな貯金を得て、妻と念願のドイツ旅行にこぎつけました。貧乏学生だった身、本当なら貯めたお金でもう少しマシな車に買い替えた方が現実的だったかもしれませんが、私たちにとって旅は大切な選択で、何ものにも変え難いイベントでした。
12月のドイツは寒く、午後3時過ぎには暗くなりましたが、クリスマスを控え、街は華やいでいました。しかし、色とりどりのアメリカとは違い、宗教的行事として厳粛で静謐(せいひつ)な雰囲気もありました。24日のイブには正午で全ての商店が閉まり、街から人の姿が消えたとき、旅人である私たちは心細さと寂しさを感じたものです。深夜、夫婦で町の教会に行き、ミサに加わりました。小さな町の薄暗い聖堂で慎ましやかに祈る人たちに混じり、日本でいう「きよしこの夜」を歌い、見知らぬ人たちと握手を交わしました。
満点の星空の下、石畳を歩いてささやかな宿に帰る道すがら、改めて「聖夜」を実感しました。この旅が終わればまた忙しい日々が始まる。自分はちゃんと授業についていけるだろうか、生活はやっていけるのだろうかと不安はありましたが、それ以上に何の根拠もないけれど「なんとかなる」と、かすかな希望を感じていました。
この旅ではたくさんの人に親切にされ、楽しい経験をしましたが、あのイブはずっと心に残る大切な思い出になりました。 遊佐 重樹
Happy Holidays!
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